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村山 仁志
2016/02/03

短編「のぞき窓の男」

 1月31日の「週刊さくらまち書房」(アナウンサー持ち回りの朗読番組)で、ついに自分で書いた短編小説を朗読しました……!
 手前味噌といいましょうか、自作自演といいましょうか、お恥ずかしい限りですが……しかし楽しく作業させて頂きました。おかげさまで、リスナーの皆様からも沢山のご感想を頂戴しました。ありがとうございました!
 では、この番組のために書き下ろした短編小説、どうぞお読みください。
 

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「のぞき窓の男」/ 村山仁志        

 それは、冬のある日曜日の朝だった。
 格好良くいうとベテラン企業戦士で独身貴族、現実的には、くたびれた中年サラリーマンで独り身の彼は、アパートのベッドで熟睡していた。
 このところずっと残業続きで、きょうは久しぶりの休みだ。彼はたっぷり寝だめしようと決め込み、暖かい布団の温もりに包まれながら、まるで冬眠中の動物のように深い眠りの中にいたのだった。

『ピンポーン♪』

 幸福な眠りを、ドアのチャイムが容赦なく遮った。
『ピンポンピンポン、ピンポーン♪』
 彼はしばらく居留守を使っていたが、チャイムの主はいつまでも諦める気配が無い。仕方なくベッドから這い出し、ドアの前に立った。
 のぞき窓から見ると、白いセーターを着た青年が立っている。
「あの……なんでしょうか?」
 思い切り不機嫌な声で聞くと、青年は緊張した面持ちで直立不動になった。
「こ、こんにちは!」
「こんにちは」
「きょうは、さ、寒いですねえ!?」
 なにやら様子がおかしい。よく見ると、なかなか整った顔立ちの美青年だが、表情にはある種の必死さが漂っていた。
「なにか御用ですか?」
「お願いです。中に入れてください!」
「は?」
 意外な返答に驚いていると、青年はのぞき窓に思い切り顔を近づけ、大声で言った。
「寒いんで、中に入れてください! お腹も減ってるんです! あなたをいいひとだと見込んでお願いしてます! どうか入れてください!」
「いや、急にそんなこと言われても……」
「ちょっとの時間でいいんです。お願いします!」
「いや……」
「お願いします! お願いします! お願いします!!」

『ぴぴぴぴぴぴぴぴぴっ』

 軽快な電子音が、彼を現実世界に引き戻した。
「何だ、夢か……」
 目覚まし時計を止めながら、ため息をついてしまう。まったく、せっかくの日曜日なのに、いつものくせでアラームのスイッチを入れてしまっていた。それにしても、変な夢を見たものだ。
「寒っ……」
 震えながらカーテンを開けた彼は、目を瞠った。
 アパートの二階から見る景色は、一面の銀世界だった。

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「うわあ。きれいだなあ」
 きのうの夜に降り出した雪が、しっかりと積もっていた。九州では滅多に見られない眺めだ。
「きょう、休みで良かったな……」
 これだけの雪だと、交通は完全にストップしてしまうだろう。下手をしたら、普段バスで一時間かかる会社まで、歩いて行かなければいけない。
「あれ?」
 ベランダに、白い猫が座っていた。窓越しに彼をじっと見上げている。
「いつの間に……ていうか、どうやって二階まで」
 思わず窓を開けると、するりと猫が入ってきて、パジャマの足元に擦り寄った。
「あ、こら。うわ……冷た!」
 その白い毛皮は、まるで雪のように冷たくなっている。
「仕方ないなあ。あったかいミルクくらいやるか」
 すると、お礼を言うように猫が鳴いた。
「あのな。部屋に入れてやるのは、ちょっとだけだぞ。ミルク飲んだら、出てってもらうからな」
 少々厳しい口調で言いつつ、実は結構動物好きの彼の口元は、すっかり緩んでいた。
「ちょっとの時間でいいって、さっきお前が言ったんだからな。……って、あれは夢か」
 白い猫は、すっかりくつろいだ様子で毛づくろいを始めている。ふと目が合ったとき、にやりと笑ったように見えた。

(終)

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